私だけの愛しき心の中

信仰がなくては悪意に勝つことはできない

あなたをなぞって、感銘を受け、よりいっそう好きになる。

タイトル何言ってるかわかんないと思います。すみません。加藤シゲアキがすげえって趣旨のブログです。

 

11月20日に情報解禁があり、12月20日に発売され、加藤シゲアキ大先生が解説を書かれた小説といえばそう、『2020年の恋人たち』です。

 

大人の恋愛小説の解説をされるということで、とてもとても楽しみにしていたんですが、年末年始の忙しさが思ったより尾を引き、中々まとまった時間がとれず、2月になってようやく読み終えました。

で、読む前から決めていたことがありまして、確か加藤さんがラジオで「ぜひ読み終わったら解説を書いてみてほしい」という趣旨のことを仰っていたので、中学生の時に書いた読書感想文ぶりに感想を書こうと思っていました。自分で解説を書いた後に加藤さんの解説を読もうと思ったんですが、これを書くのにも中々の時間がかかりまして…

それでも解説書いてみて良かったと今は思ってます!もし未読の方がいればぜひぜひ書いてみてもらいたいです。

ということで、ここから先はネタバレ全開の本の解説&感想になっているのでご了承ください。とっくに読み終わってるわ!という方は、私の拙い解説は読み飛ばしてもらっていいので、後半部分の解説についての感想の所だけ読んでもらえたら…と思っております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ということで、まずは私の書いた解説?感想?になるんですけど、正直恥ずかしいくらい拙い文章でして…でも加藤さんが誰かに読まれることを前提に解説を書かれた以上、なるべく私もその形に則りたいと思いましたので、ここに載せます。

ただほんとのほんとにお見苦しいと思うので、読まれる方は温かい目で見てもらえればなというのが本心です。お手柔らかに。

 

 

 

 


 

恋なんてしなくても、恋愛がなくても、人は幸せになれるし少なくとも私は幸せだ。私はそう思いながら今日まで生きてきたし、この小説を読み終わった今もそう思っている。でもこうやって、0か100かみたいな極端な思考で自分を縛っている私はまだ子どもなんだろうなと思う。それが、“恋なんてしてもしなくてもいいのだ”と言える、大人な葵との違いだろう。

 

物語は2018年春、主人公前原葵が母親を事故で亡くした夜から始まる。女手一つでワインバーを経営し、沢山の男性常連客を抱えていたバイタリティ溢れる母親の突然の死。葵の元に残されたのは、リニューアルオープンするつもりだったワインバー。お店を人手に渡すという選択肢もあったが、葵は自分がお店を継ぐことに決める。

 

そんな葵の人生には、様々な男性が関わってくる。ワインバーの常連客で、葵の母親から経営の相談相手として頼られながら、葵を密かに想い続けていた幸村さん。妻や子どもがいながらも葵の母親と愛人契約を結ぶ稲垣さん。葵と同棲中の恋人で、リストラと葵の独断による行動をきっかけに引きこもりとなり後に別れることになる港。有名雑誌の副編集長であり、既婚者でありながら葵との仲を深めていく瀬名さん。葵のワインバーの近くで飲食店を営む海伊さん。

 

葵は強い女性だ。沢山の選択を自分の手で下し、自分の人生に自分で責任をとりながら生きてきた。母親のお店を継ぐことも、港と別れて1人で生きていくことも、瀬名さんとの関係を進めないことも、海伊さんに別れを告げることも。そんなこと当たり前だと言われればそうかもしれないが、案外自分の決断の責任を、他人に委ねる人は多い。港との間に出来た子どもを堕ろすという決断を、葵は独りでした。話し合うという選択は取らずに、全て自分で背負うことを決めたのだ。結果的に、港との溝を深めることになってしまったが、葵はその決断を間違っていたとは思っていない。ただ、そんな自分のことは誰より嫌いだとも思っている。葵の強さと、正しさだけが正解ではない人と人との営みの難解さが描かれたエピソードだと私は思った。2人の関係は、港が実家に帰ったことで終わりを迎える。葵は振られたように見えるが、私はそう思わない。港が家を出たのは港が出した答えであって、葵は自分で区切りをつけていたと思う。港がリストラされても、子どもを堕ろしても、葵は強くあろうとした。

 

瀬名さんとの恋も進めないことに決めたのは葵だ。子どものいない瀬名さんと不倫をするのは、子どもがいる上で愛人契約を結んだ稲垣さんと母に比べればリスクは少ない。海伊さんと別れることを決めたのも葵。父親からの愛や父性に飢えていた葵が、この2人に惹かれるのは必然だっただろう。自分を構成する要素の中で、足りない部分を恋人に求めたのだ。海伊さんのことを「沈黙に滲む優しさや情がはっきりと伝わってくる。緊張しながらも、守られているような気分になった。」と言葉にしている。家族は安心をくれる存在で、でも葵にとっての家族は安心をくれる存在ではなかった。危うさと隣り合わせで、自分に矢印を向けてくれない。葵にとって恋人とは、家族がくれなかった安心をくれる存在なのだろう。友達や職場仲間ではなく、血のつながりはなくとも、自分に近くてでもよりあたたかい血が流れる人。そういった存在になりうるのが瀬名さんであり、海伊さんだったのだ。葵は強くてしっかりしているように見えるが、実態のないものにすがりながら生きていたいと思う弱さも秘めていた。しかし自分の心の奥深くの声に耳を傾けてこなかった。その声に向き合ったことで葵の考えは大きく変わる。しかし葵が変わるきっかけをくれたのは、恋人になり得ない人の方だ。

 

葵の母はもちろん、葵の義理の妹であり、事業の失敗を機に夫と離婚した箱入り娘の瑠衣。夫の海外赴任に帯同したが、離婚を迫られ一時帰国中の叔母。京都で出会ったセレクトショップのオーナー芹。葵の上司である部長。そして、葵がお店を始める際に採用し、共にお店を創り上げていくことになる松尾君。

 

葵の決断を左右する、重い言葉をくれるのはこちらの人ばかりだ。好かれたいとか、良く思われたいとかそういう気持ちが薄いからこそ、良くも悪くも真っ直ぐな言葉が飛んでくるのだろう。特に母親の存在は大きい。葵も母の影響を受けている自覚はあるが、葵の感覚以上に葵の生き方の影には母の存在があるのだ。男性に、人生に何を求めるのか。「裏切られるくらいなら、手に入れないほうが傷つかずに自由でいられる。」稲垣さんと愛人関係を続ける母の心情を、葵はこのように語っていた。葵はこの母の自由さに振り回されてきたともいえる。同じ生き方を選ぶこともできたが、葵はその道を選ぶことはなかった。でも、どの道を進むにしても母の存在を無にすることはできなかった。

 

そんな葵の人生の、アクセントになってくれたのが芹だ。瀬名さんとの関係を、いつでも戻れるものととらえていた葵に対し、「戻れることなんて、なくないですか?」と言い放った。そして葵は最終的に、戻れないから進むのをやめた。戻るという行為は葵にとって確実にとることができる選択だったが、芹さんの言葉をきっかけに保証された行為ではなくなった。保証がないことにすがるのをためらうようになった葵にとって、貴重な言葉になったに違いない。進んで、戻れなくなって、母と同じ運命をたどることになったかもしれない。葵の人生から、母を解き放ってくれた言葉になったと思う。

 

そして、何より大きな存在になったのが松尾君。言わばビジネスパートナーであり、周りから見れば一番恋人に近い存在に映るが、葵と結ばれることはない。ずっと葵と対等でいてくれた人だ。恋人にはならなくても、大切な存在でいてくれる異性は、葵にとって貴重な存在となる。いや、葵を飛び越えて、こういった存在を求める現代人は多いのではなかろうか。恋愛感情はなくとも、信頼できて安心できる存在。葵の言葉を借りれば、自分の分身のような存在。多様性が叫ばれる世の中で、男女に代表されるような人と人との関係も多様化している。葵は松尾君に出会ったことで、また強くなれたように思う。

 

出会い、別れ、考え、悩み苦しんできた葵は、手放してはならない『私』という存在を認識した。知らず知らずのうちに他者にすがって生きてきた葵は、たくさんの決断を経て『私』を手に入れた。私が私であるならば大丈夫。恋をしてもしなくても、まっすぐ立って生きていけると悟ったのだ。葵は大人になった。恋愛を避けている私とは違う。恋愛をあまたある生き方の一つとして位置づけられるように、人は出会い、別れ、考え、悩み苦しんでいかなくてはならないのだろう。葵はそんなことを私たちに示してくれたのだ。

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして解説を書き終えた後も恥ずかしさはなくならないんですけど、あんまり言いすぎるのもどうかと思いますし…

 

はい!もう私の解説は置いといて、加藤さんの解説の話をしましょう!

いやもうほんとに凄い!プロの作家が解説を書くとこんなにも本の解像度が上がるのか…と思い知らされました。自分で解説を書いてみたことによって、よりその思いが強くなったように思います。

知識があるとこんなに深い恋愛小説の読み方ができるんだなと。恋愛小説を読んだのは中学生ぶり?とかだったので、はぁ~恋愛小説に必要なのは喪失と不在なのか~という基本のキから教えてもらえて、もうこれぞ解説!って始まり方でしたね。他にも、シールド→りんご・ビール→麦という違い、赤と白という違いから、葵と母の対照性を浮き彫りにさせているのがすっげえなって。思いもよらなかったんですけど、その読み方できたら奥深さ出るよな〜って。いやまじで作家すげえよ。知識ってこうやって使うんだなって思わされました。松尾くんのセリフで『はっきりした青と暗い青が一つになって、ゴッホの絵みたいですね』っていうのが好きで、こういう教養ある言葉がサラッと出せる大人になりたいと思いました。そしてその教養ある大人がまさしく加藤さんでした。精進致します、、、

 

あと解説を書いて思ったのが、月とすっぽんぐらい差があるのは大前提として、ほんのすこ〜しだけ同じようなことが書かれているとめちゃんこ嬉しくなりますね笑 わかる〜!そうだよね!!!ってバカデカボイスで叫びたくなりました。

 

あとはスペイン旅行のところ、葵にとってターニングポイントになっていることはわかっても、どう触れていいのか分からなくて諦めたんですけど、解説を読んでほぉ~そういうことかと。やっぱり知識がないと深層のところで理解できたとは言えないし、言語化もできない。というか触れ方が分からないからあきらめる時点で解説失格ですよね…精進いたします(2回目)

 

というか解説だけでも短編小説として成立しそうなくらいオシャレでスマートな文章になっていて、本編の温度感に合わせた解説になっているのも流石だなあと思いました。自分が書いてみて、温度感合わせるのめっちゃむずいなって思いましたし、書きたいことを全部つめることはできなくて、どうしても取捨選択が必要になるなって思って。そこも上手くて本当に脱帽しました。恐れ入りました。すげえっす。

 

語彙力どこいったん?って感想ですみません、、、精進致します(3回目)

 

ちょっと解説では触れられなかったけど好きなシーンが沢山あるので、サクサクにはなりますが感想を残しておこうと思います。

※結構加藤担としての感想が多くなってると思います。

 

『業界の人って、洋服を羽織るみたいに業界人っていう自意識を着てるな、と思って。』という葵のセリフ、加藤さんはどう読んだのかが気になる。意外と二分されるんじゃないかなって私は思うので。

最近は動画が主流で音楽が流行っていないという後輩からの言葉を受けた葵が、『それなら彼らはまぶたを閉じたときに広がる世界を知らずに、目を開け続けているのだろうか。』と思う場面。どっちがいい悪いとかは無いけれど、その世界を知ることがなければ、無意識のうちに世界を狭めてしまうことになりそうだよなと。

『その人自身に惹かれて、ただ存在しているだけで嬉しいことが、恋とか愛じゃない?なにかを与えてくれるから好きになるわけじゃないよ』このセリフまんま私が加藤さんに抱いている想いと一致するんですが、これはつまり恋ですか?でもやっぱり与えてくれないと気持ちが覚めてしまいそうだから、恋や愛とは違う感情なのかもしれない。でも私は加藤さんが生きているだけで嬉しいって思うので、これは“推す”っていう感情なんだろうか。難しいですね。

 

 

 

『2020年の恋人たち』とっっっても面白かったし、加藤さんの解説のおかげでより解像度が上がったし、思い出に残る作品がまた1つ増えたこと、とても感謝しています。加藤さんの一言がきっかけで、普段なら絶対しない“解説を書く”という経験ができたのも良かったなって思っています。1冊の本で、世界がぐっと広がりました。次はそうだな、24歳になったら小説を書いてみるのもアリかな〜なんてほんのちょっと思っています。小説家になりたい訳じゃないし、完全に趣味の領域ですが、加藤さんをなぞるように生きてみたいなって思ったり。その時の自分の状況によりけりですけどね。

 

以上、加藤さんの言葉に素直に従い解説を書いたオタクによる感想ブログでした!

次があるなら加藤さんの恋愛小説の解説を書きたい!ので、その時までに知識をためておきます!